[ 研究実践

★主実践 単元「宮古の自慢CMを作ろう」


1 単元の構想

 今までメディアに見方や考え方を深める教育に取り組んできた。テレビ番組やコ
マーシャルを分析したり、合成写真作りをしたりといった学習であった。
それらは、どちらかといえば単発的な活動であった。そこで、メディアの見方や考え
方を深める学習を本格的に行いたいと考えた。というのも、子供たちが強烈な体験
学習をすることにより、物の見方・考え方を深化させることができるのではないかと
思ったからである。
そのためには、「メディアの本格的な送り手」になる必要がある。「受け手の立場」
から「送り手の立場」へ。これがこの学習の出発点である。
 内容として選んだのは、コマーシャル作りである。コマーシャル作りのよさはたくさ
んある。まず、子供たちがイメージしやすいこと。時間が限定されている分、必要な
情報を取捨選択しなければいけないこと。カメラ、音声といったメディアの技術を学
ぶのにも適していること・・・等。「視聴者にわかりやすく伝えるための工夫」がコマー
シャルにはある。「やってみたい」と思う子供たちの喜ぶ姿が想像できた。
 では、その対象を何にするか。コマーシャル作りでのポイントの一つとして「取材」
があげられる。小学校5年生であれば、「人」から直接取材するのがよい。しかも自
分たちの地域の方に。必要があれば何度も取材が可能であるし、何よりも一連の
活動を通して、地域への愛着も育つであろう。
そのような意図から、「宮古の自慢CMを作ろう」という単元構想ができた。

2 学校放送番組「体験!メディアのABC」(NHK教育)

(1) 番組について
 「体験!メディアのABC」は、小学校五・六年向けのメディアリテラシー教育番組で
ある。「アップとルーズ」「キャッチコピー」「ビデオの撮影」など年間20本で構成されて
いる。 
 毎週月曜日10時〜10時15分、毎週木曜日11時15分〜11時30分に放送がさ
れている。
 番組は、「テーマについての興味づけ」「体験コーナー」「メディアのプロのコーナー」
などから構成されている。
 これまでメディアリテラシー教育を実践する時には、「いい教材が見つからない」「プ
ロの話が聞くことがなかなかできない」といった困難点があった。ところが、この「体
験!メディアのABC」を活用することによって、それらの困難点がかなり改善されるの
である。「キャッチコピー」の回を例にとる。
この回の体験コーナーでは、りんごについて実際にキャッチコピーを作っている。その
方法も、「思いついたことを付箋紙に書く」→「並び替えて考える」といったように、すぐ
に追試できる形で示されている。さらに、「言葉は短く」「ターゲットを誰にするか」とい
ったポイントも示される。
 続いて「メディアのプロ」の登場である。ここでは実際のコピーライターが一つのCMの
キャッチコピーを作るまでの経緯が紹介される。このようなプロの話は、当然のことなが
ら教室では気軽に聞くことはできない。
 このようにわずか十五分の番組であるが、その中に、「興味づけ・素材の提示・方法の
提示・ポイントの提示・プロの話」が盛り込まれている。つまり、一単元数時間の学習内
容が入っているのである。しかも、子供たちが引き付けられる仕掛けが随所にある。
 私は、それらの要素に加えて、単元の終わりに「メディアに関わる見方や考え方を深め
る発問」を子供たちに投げかけている。これによって、子供たちは自分の学びを振り返る
ことができるのである。
 この「体験!メディアのABC」を単元「宮古の自慢CMを作ろう」に効果的に活用するこ
とにより、学習のねらいに迫ることができると考えた。

(2)学校放送番組の活用の方法
■年間を通して
・月に2回、定期的に視聴をする。(1ヶ月に2本程度の内容が繰り返し放送される。)
・必要に応じて、視聴内容の沿った数時間の小単元学習を計画・実践をする。
・活用は総合的な学習の時間の「フリー学習」の中で行う。(平成13年度の本校の総合
 的学習は「地域学習」と「フリー学習」に分かれている。)
■単元「宮古の自慢CMを作ろう」に関わって
・基本的に一回視聴したものを再活用する。
・全員一斉に活用をするのは「キャッチコピー」「アップとルーズ」の2本。改めて視聴をし
 て、キャッチコピー作りの具体的な方法やアップとルーズの活用方法について学ぶ。必
 要に応じて繰り返し視聴させる。
・その他の番組については、グループごとに適宜活用をする。(学級でいつでも視聴でき
 るように録画をしているので、辞典のように活用できる。実際に「インタビュー」「取材」と
 いったような学習内容に関わる回について子供たちは視聴をしていた。)

3 単元について

(1) 単元のねらい
 宮古の自慢CM作りを通して、地域への愛着を育てるとともに、メディアの見方や仕組み
について理解を深めることができる。


★授業の様子

@ 教師が事前にしたこと
 私自身が事前にしたことは、次のようなことである。
ア、「宮古自慢」に関わって用意できる資料を収集。
 →市役所、観光協会等からパンフレットをいただいた。連絡先が書かれているかどうか確
  認をした。
イ、子供たちのビデオ撮影スキルの確認。
 →学校の放送委員会から「学級紹介ビデオ」を依頼されていたので、子供たちに任せて
  確認をした。
ウ、バランスのよいチーム編成
 →15人の学級を5人ずつ3つのチームに事前に編成した。リーダー性、発想力、行動力等
  をバランスよく分けた。
エ、布石となる家庭学習の課題を提示
 →学習に入る前に、「宮古は全国的に有名かどうか」というテーマで家族に聞き取りをして、
  自分はどう考えるかノートに書くように指示をした。これは単元の導入段階で生かされるこ
  とになる。

A「宮古のコマーシャル作りをしたい!」
 単元の導入の授業。ポイントは「宮古のコマーシャル作りをしたい!」という意欲を子供たち
に持たせることである。その動機づけが強烈であればなおよい。
 事前に、子供たちと話していて、感じたことがあった。それは、「宮古は全国的に有名だ」と
思い込んでいるということである。この認識をひっくり返すことにより、強烈な動機づけができ
るのではないかと考えた。
 そこで、家庭学習で「宮古は全国的に有名かどうか」という聞き取りをする。親は有名半分、
有名ではないが半分である。有名ではない派の理由の方が明快であり、子供たちも納得した。
そこから、「宮古を有名にしたいね!」と投げかけ、どんな方法が効果的か聞いた。いくつか出
た中で一番効果的なのはコマーシャルということになった。その対象は実際に宮古の人に聞い
てみようということになった。
            
B町角インタビューをもとに対象を決める
 実際に町角の人に聞くのはインタビューである。
 教室でロールプレーイングをして練習をして、町に飛び出した。わりと度胸のある子供たちだ
し、以前にも経験をしているとのことで安心をしていた。
 ところが、子供たちは苦労をしている。声がけがぎこちない。断られるたびに、だんだん表情
が険しくなっているチームもある。そこで、事前に設定していた中間休みのときに、うまくいくコ
ツを出させた。
 「元気のよいあいさつをみんなでする」「相手の話にうなずく」「話を受けて突っ込んで聞く」「一
人に断られても何度もアタック」といったことを確認。他チームの具体例も参考となり、後半は見
違えるように変わった。
 インタビューは集計用紙に書かせた。一枚に一項目。同じものが出てきたときには、メモをし
た用紙の人数欄に数を追加する。この数の把握は極めて重要である。
 教室で結果を発表。教師はその発表を、「自然」「食べ物」「施設」「人」等に色分けした画用
紙に書き込んでいく。画用紙が黒板いっぱいとなり、子供たちも改めて「宮古の自慢はたくさん
あるんだ」と感じた。
 子供たちが選んだ対象は次の通りである。

1班・・・・浄土ヶ浜 2班・・・・うに染め 3班・・・・さけ

浄土ヶ浜とさけは地域の名物であるから予想できた。また、インタビューでも一番と二番目に多
い数であった。うに染めを選んだチームは、「インタビューでは一人しかいなかったけど、おもしろ
そうだから」がその理由だった。どれにも共通するのが、「取材対象の人」がきちんといるというこ
とである。

C積極的な取材がよりよいキャッチコピーを生む
 対象が決まれば、取材予約である。もちろん子供たち自身が行う。
 念のため、言うセリフをそのまま書いた手引きを用意して、それに基づいて行う。
浄土ヶ浜は観光協会、さけは市場に電話をしてすんなり承諾をしてもらえた。うに染めは、開発
者の田川さんが多忙ということであったが、「宮古の子供のためなら」ということで何とか了承を
得ることができた。
子供たちの予約後、教師も取材先に放課後出向く。あいさつ、簡単な説明をするだけではなく、
現場の様子を見て実際に子供たちがどんなコマーシャルを作ることができるか、イメージ化をす
る。
 実際の取材は時間が限られている。何とか有意義な時間にしたい。そのためには、事前の取
材計画が重要である。取材役割分担(聞く係、メモをする係、デジカメ係)、質問内容吟味、そし
て取材練習を経て取材である。
 事前の学習が功を奏し、また、取材先の「人」にも恵まれ子供たちは価値のある情報を得るこ
とができた。
 その情報をもとにキャッチコピー作り。グループごとに「取材メモ」「取材写真」「パンフレット」が
ずらりと並ぶ。キャッチコピー作りの方法は「体験!メディアのABC」で把握している。「付箋紙
に思いつくキーワードを書く」「ボードに貼る」「使いたいキーワードをいくつか選ぶ」「並びかえし
たり、一部修正したりしてキャッチコピーを作る」という手順で行った。
キャッチコピー作りには情報収集が必須である。子供たちは、積極的な取材によって価値ある
情報を得ていた。その結果、満足のいくキャッチコピーができた。
 各チームのキャッチコピーは、次の通りである。

★浄土ヶ浜チーム
「自然のままのしずかなながめ  ふかい歴史の浄土ヶ浜」
★うに染めチーム
「きれいな色、いろいろ 世界初!うに染め」
★さけチーム
「満ぞく度120% みんな大好き! 魚の王様 宮古の鮭」


D撮影まで一気に進む
 次はいよいよ撮影計画作りである。
 今回は、撮影計画作りに「字コンテ」を使った。「絵コンテ」の「絵」を「文字」に変えたものであ
る。この「字コンテ」のよさは、絵に無用なエネルギーを注がなくてもすむという点である。子供
たちは撮りたい映像をイメージしていても、それを絵に表現するとなるとかなりのエネルギーが
必要となる子もいる。それでいながら、できたものは十分に文字でも伝わるものの場合が多い。
ならば最初から「字コンテ」がよいというわけである。
 今回、その字コンテを作成する際の留意点は次のようなことである。

・ 字コンテの内容は、@シーンAセリフB長さC撮影のポイント等、ワークシートに記入
・ 教師からは簡単な例を提示する
・ シーンは4〜5つにとどめる。話の展開を決めやすいからである。
・ 時間は1分程度。
・ キャッチコピーをどこかに入れる
・ あまりズームを使わない。アップの絵を撮影したいときには、カメラを近づける
・ 三脚を用いる場面と用いない場面を考える

 今回は編集なしで順序よく撮影をすることにした。
「今回の授業のねらいを達成するために、編集の有無はそれほど影響がないこと」
「編集の学習の経験がないので、編集活動をするにはさらにかなりの時間が必要なこと」「編
集なしとなると緊張感を持って集中して撮影する効果があること」
「取材相手と一緒の撮影なので、編集での撮影となるとOKになるまで何度も撮影を行い、相
手の負担が増えること」
等がその理由である。
 むろん、編集なしにすることは、事前に入念な取材・撮影計画が必要となる。また、ディレク
ター係、カメラマン係、音声係、カンペ係といった係の仕事の理解も不可欠である。
それを前提とした上で、リハーサル。実際にセリフを言うのはもちろん、カメラマン役の子は国
語辞典をカメラに見立てて本番さながらのリハーサル。撮影相手となる太田さん、田川さんへ
のあいさつや説明の練習も行う。初めてのCM作りであるだけに、子供たちも意欲満々である。
そして、無我夢中で一気に撮影まで進んだ。撮影では、「変更が必要になったところでは自
分たちの判断で変更してよい」と事前に確認をとっておいた。
 ここまでは順調である。

 子供たちは「順調」と思っていたが、私は「撮影ではここでつまずくだろう」という予想がある
程度あった。たとえば、さけチームは、「お客さんにセリフを言ってもらう」という場面を設定し
ていた。しかし、お客さんがそんなに簡単に協力してもらえるとは思われない。
そのような点が、どのチームにもあった。しかし、その予想されるつまずきには、あえて子供
たちに助言はしなかった。「失敗も学習のうち」と考えたからである。「失敗した方が、多くの
ことを学ぶに違いない」。そんな意図が私にはあった。

E壁にぶつかる

 1回目の撮影は案の定、どのチームも苦労した。
 撮影計画では、1分から1分30秒のCMである。そのためにどのチームも1時間30分から
2時間程度費やした。
 各チームともいくつも壁にぶつかる。例を示そう。

☆浄土ヶ浜チーム
・雨の中での撮影。外で行おうとしていた部分を急遽場所を変更しなければいけない。
・移動しながらの撮影が、撮影技術未熟のためうまくいかない。
☆うに染めチーム
・計画していた「いろいろな色の布」の準備をお願いしていないので、その布がないまま撮
 影しなければならない。
・ディレクターとカメラマンの連携がうまくいかず、かなり時間オーバーのCMに。
☆サケチーム
・お客さんに出演依頼をしてもなかなかつかまらない。
・どんなにビデオを近づけてもうまく音声が入らない。

 これらの壁は有り難かった。というのも、内容面、技術面、共に自分たちが改善しなけれ
ばいけない点を自覚したからである。

FCM批評会で変わった子供たち
 CM批評会では、地元のNHK宮古報道室の鈴木記者を教室に招いた。いわば、メディア
のプロである。
 批評会では、友達の注文、そして鈴木記者のアドバイスと、子供たちにとっては「厳しい
批評会」となった。この会で子供たちが学んだことは、「CMを初めて見る人の立場になっ
て、作品を作る」ということである。これらのことを子供たちは意識していないわけではなか
った。しかし、指摘されて改めて実感したのである。
 むろんやむを得ない面もあった。撮影が雨となったり、準備すべき物がなかったりというよ
うにだ。それはそれで、「このようなときにはどうするか」という予測することの大切を学ぶこ
ととなった。

 さて、2回目のCM作り。子供たちは予定していなかったものである。これは当然である。
最初から2回を予定していたのでは、1回目の緊張感も薄れる。
ここからは、私も1回目のCM作り以上に積極的に子供たちに関わった。子供たちの学びを
深めるために、次のような仕掛けをした。

☆ 再計画を立てるときに、鈴木記者にも参加してもらい、プロからのアドバイスをもらう。
→プロとしての学ぶべき点は主としてその発想である。具体的な代案を提示され、子供た
ちも2回目の参考とした。同時に、現場の人といかに接するか(例・一緒に活動をしてみる)
も子供たちは学んだ。
☆ 各チームとも、「一番見てほしいポイントは何か(コマーシャルコンセプト)」考えさせる。
→教師が各チームに入り、子供たちの考えを掘り下げる問いかけをする。「それはどういう
意味?」というように、考えを明快にさせる。
☆ コマーシャルコンセプトに基づいたアイデアをどんどん出させる。
→「ブレーンストーミング形式でアイデアを出しましょう」と投げかける。どのようなアイデア
も否定しないようにする。数多くのアイデアが出てきた上で、どれがいいか選ぶようにする。
☆ 再取材でキーワードを見つけるようにさせる。それを実際のせりふで挿入する。
→コマーシャルコンセプトに基づいた質問を事前に考えさせるようにする。
☆ より見やすくするために、撮影技能を高める。三脚・音声マイクといった機材も適宜使用
 する。

→一回目の失敗点を各チームとも再計画の段階で確認をさせる。
☆撮影リハーサルを納得がいくまで何度も繰り返す。
→たとえば三脚の設置にしても、何度もテストをしてから行っていた。また、カメラマン係の
子供たちは、「どうすれば効果的な映像になるか」を考えながら撮影をしようとしていた。こ
れは、教室での練習の成果が大きい。

 2回目のCM作りにかけた子供たちの意欲はすさまじいものだった。全力投球をしたとい
ってもよい。

G完成、そして振り返りの授業
 2回目の撮影は、子供たちにとって満足のいくものとなった。
このような活動のあとであれば、コマーシャル鑑賞会は批評しあう必要はない。自分たち
の工夫したところを話す。友達は他のチームのよさをどんどん発表をする。
ただ、教師としてはすべきことがある。それは、メディアの見方を深める学習をすることで
ある。どんな視点を深めるか。今回は子供たちが実際に、メディアの発信者としていろい
ろな体験をしている。その具体例に基づいて行うのがベストである。
 今回扱った例は次のようなものである。

★浄土ヶ浜チームはキャッチコピーに「静かなながめ」とある。撮影もそのイメージで行
った。しかし、現実は観光客が多数訪れる。
→映像はあくまでもその全体像の一部を写したものであるという認識
★うに染めは、最後のシーンで出来上がっていた作品を写した。撮影で実際に染めたも
 のは使わなかった。時間の都合上である。
→これはテレビ番組でも見られることである。子供たちからも料理番組の例が出てきた。


4 子供たちが学習で得たもの

 一連の学習で子供たちが得たものは次のようなことである。
(1) いろいろなスキルが伸びた
ビデオ撮影スキル、インタビュースキル、質問スキル等、子供たちが伸びたスキルは数
多い。
(2) 人との関わり方を深めることができた
今回、子供たちは多くの人々のお世話になった。直接取材した方だけではない。町角イ
ンタビューで多くの人に関わりを持ったり、コマーシャル出演の依頼をお願いしたりした。
時には「都合が悪い」と断られることもあった。それも大切な学びの場となった。
(3) 地域への愛着を深めることができた
宮古のことを調べていくうちにいろいろな人と出会い、今まで未知の宮古を知ることがで
きた。これは結果的に地域の愛着を自然に深めることになった。
(4) メディアの見方を以前より深めることができた
コマーシャル作りを実際に体験したことで、子供たちが「メディア発信のしくみ」を学んだこ
とは事実である。それも1回だけではなく、2回制作したことにより、体験が経験に高まっ
たと私は考えている。
 だからと言って、この学習だけで皆メディアの見方が急に変わるというのは早計である。
むしろ、これから、今までの学習を継続する活動を行うことによって、強化されるものと考
える。ただ、見方が深まっている子がいるのも事実である。これからの子供たちの成長に
期待したい。

「地域のよさ・日本のよさを伝える授業」佐藤正寿のホームページより転載させていただきました。

前に戻る  次に進む  投稿・転載menuへ